円高が続いている。

世の中には95年の円高の時と比較すれば実質実効為替レートはまだ低位にあり問題ないなどという人がいる。とんでもない間違いである。
95年〜2010年の間に日本であったことはデフレであり、企業の海外移転であった。いかに円高が日本経済にダメージを与えるか検証してみよう。

1.かつての円安局面
03−07年までの円安局面でも日本国内に集中して工場が作られて正社員が増加したわけではなく、派遣労働者期間工で製造業は賄おうとしていた。好景気基調になると考えている製造業はほとんどいなかったからである。
結果は円安局面終了をフラグとした契約期間終了後のいわゆる「派遣ぎり」である。労働者側からすれば当然不満だが企業側としては予定通りの行動であろう。
では円高になった今、国内で工場建設などの生産拡大を行うか?日本でなければ作ることができないのならともかく、そうでないなら答えは「NO」だ。

2.円高下での企業行動
昔から進められているのが海外生産による外貨建での調達である。国内生産でも輸入比率を高めて外貨建てで買うという手段もある。
上記は元々輸入代替や逆輸入による国内販売が多かったが、現在は地産地消が目的とされることが多くなった。それこそが為替フリー状態である。
ドルはこの対策がうまく働きやすい。ひとつはドルが国際決済通貨として未だ有効だからであり、もうひとつは中国元が米ドルと連動しているからである。

その点ではすでにドルでの決済が大勢となっている韓国・台湾からの部品供給による中国での組立という方式は容易であり、PCなどはこの方式での組立が主流となっている。PCのアセンブリ(組立)は中国もしくは台湾、メモリは韓国、HDDは東南アジア(タイ・フィリピン・シンガポールベトナム)、MPUは米国インテル(製品は東南アジアからくるが)とドル決済で出来上がるわけである。

これから起こる中国元の米ドルから乖離しての上昇、中国国内賃金上昇がおこると、中国を拠点とする輸出産業では中国での生産からさらにベトナム・インドはてはバンクラディシュまで移転させていくだろう。これはユニクロを代表とする労働集約産業の生き方である。電気機械・重工業は周辺部品産業が必要であり、産業集積が行われて始めて現地調達が完了する。それまでは部品の輸入があり、為替問題から完全に逃れることが難しい。

一方日本企業にとって元々難しいのが欧州での展開である。欧州はユーロ建て取引なわけだが、ユーロ圏内での生産というと欧州通貨統合以前は西欧で生産すること自体に魅力がなかったので、日本企業は販売拠点は多くあれど生産拠点は少なかった。90年代から現在にかけてはチェコポーランド等東欧の中でも機械産業の土壌がある地域での旧東欧地域での生産拠点が作られていった。しかし21世紀初頭からのユーロ高局面では欧州に輸出すれば事足りたためにその動きは限定的で、リーマンショック以降のユーロ安局面に対応できなかったのである。
これはドル経済圏での生産では中国であってもユーロ圏の開拓は困難であることを意味する。今後日本企業は長期的にユーロ圏での生産拠点増強に傾くことは確実である。

では日本での生産はどうなのか?
企業環境として最悪である。国内需要が減退している中で輸出ドライブでの採算確保をしようにも円高で採算はとれない。大企業は需要が回復しても海外生産拠点での生産増強にとどめる。国内は国内販売向けを生産するにとどまり、それさえ逆輸入品と混在である。当然雇用は回復しないし失業率は横ばい。市場としても魅力がなく、生産拠点としても魅力がない。それでいて税率も高くて規制も多ければ日本に向けて投資するのはかなりの物好きということになる。

失業率がなぜ横ばいかといえば失業保険をもらえる期間はハローワークに行くが、それ以降は就職を断念する人々がいるために無職の増加ほど「失業者」が増加しないためである。それの証左が生活保護家庭の増加であろう。生活保護の認容が以前より緩やかになったためともいわれるが、2010年3月には130万世帯と対前同で1割増となっている。海外にでていけない中小企業は国内に残った需要めがけてゼロサムゲームに走る。こんな状態で企業倒産が急増しないのはむしろ不思議なぐらいだが、原因は簡単で昨年当時金融担当相だった国民新党の亀井代表が中小企業金融円滑化法を通したからである。つまりモラトリアムのおかげで返済に迫られず倒産しないだけである。当然返済可能性のない会社は数多く存在する。放置され続けたとすると、時間がたてば社長が亡くなる際に会社が相続されずに消滅していく可能性はある。なお追い貸しの義務はないので金詰まりになることは当然あり、そうなった会社から倒産することになる。

3.若年失業者
現在20代の失業率は全体の失業率の倍の10%程度と目されるが、彼らの就職先は増えない=失業率の高止まりが決定しているのである。
企業が国内での採用を増やさない乃至減らすとはそういうことだ。
しかも最近の傾向として大学卒業時に就職先がなければ大学院に行こうとすることが多く、潜在的な失業者は多くなっている。しかも修士卒はともかく、博士卒に関しては企業は雇いたがらない。即戦力でない上に年食っているとみなされているのである。大学院で研究員として残るのもまた難しい。国が予算を削ってきているのだから。
ニートという言葉が定着して久しいが、ニートにならずに定職につくのは実は難しいのである。それでも都市ではアルバイト生活なら最低限可能だが。

つまり何が問題かというと、従来産業は若者を受け入れる余地はなく、円高でも拡大する産業が必要なのである。が、そんな産業は日本に存在していない。
決して介護や医療事業は円高で拡大する産業ではない。

続きは明日にでも。