東電のこと 2

昨夜も宮城県で大地震が起こり、東京でもかなり揺れた。
しかし東北が停電に陥ろうとももはや関東では平静を保てるようになってしまった。
最たるものが今日ストップ高をつけた東電株である。マネーゲームの域をでるものではないが。
というのも、本日のニュースは「夏は計画停電を回避」というものだが、計画停電しないようにピーク時に企業は25%、一般家庭では15−20%の削減を目標として節電を行うもの。ただの言葉のお遊びだ。

今日は東電についてかいてみよう。

1.夏場の節電ってどうすればよいのか?
節電をする際に工場をもつ企業は24h稼働が必要なラインは稼働するラインそのものを削減する必要があるが、昼間稼働するラインは夜勤への切り替えが日常的に行われるだろう。夏場の電力需要のピークは冷房によるものが顕著なので、企業は夜勤に転換すればほぼ解決できるものだ。「みんな夜勤にできれば」だが。
工場ならともかくサービス業である金融や飲食店やパチンコ店や一般的な商店(コンビニを除く)などは営業上できようはずもないだろう。パチンコ店は「よく冷やしております」などと記載していたりするぐらいなので、景品交換関連のお目こぼしを辞めて営業停止に追い込んでいけば電力需要は減るに違いないw

問題は一般家庭である。「夜勤」にされたら昼間ねるしかない。夏場の日中37度とかの状態でエアコンをつけずに寝たら熱中症になるのは想像に難くない。
実のところ都市部ではエアコンをつけない生活は暑さに慣れた人間でもかなり危険である。となると結局冷房による電力需要は減らしがたい。

産業の動力源を減らすことはGDPが低下すること覚悟でできるかもしれないが、冷房需要を劇的に減らすのは実は難しいことなのである。
GDPの低下を招いたら一か所に原発を固めて経営していた東電はどう責任をとれるのか?操業度補償を契約にうたっていないことは確かだ。
しかし電力契約量を全く満たせない結果を招いたら損害賠償請求を受けても仕方がなかろう。

東電が夏場に賄うことができない電力量は1,000万キロワットを超える。東電が夏場に用意できるとされている電力量は最大4650万キロワット、これに対して昨年のピークは6,000万キロワット。節電で実際に減らすことができるのは5%がいいところで、後は供給カットによる削減が必要となる。

2.原発の再稼働準備をすすめるべきだ
夏場に用意できるとしているのは休止中及び今回被災した火力発電の再稼動と火力発電のうちガスタービンのものをいくつか増設することで賄うというもの。
決して定検中の柏崎原発の一部や福島第一原発5・6号機の再稼動などは織り込んでいない。

将来的に風力発電太陽光発電地熱発電に望みをつなごうと考えるのはいいが、今の生活を維持するために原発が必要で、安全性の再確認を条件に夏までに再稼動させることを地域住民との間に合意をとらなければならないという事実から背をむけてはならない。
原発反対なら電気を使うなと言いたいのだ。そのために石炭火力を増やしてよいとするほどの原発嫌いなら認めるが。自然エネルギーへの切り替えを望むなら、発電可能量を確認すべきだ。風力や太陽光で賄おうにもそのような広大な用地はろくに存在しないし、地熱発電や波力発電をやっても能力が低すぎることが分かるだろう。

今回の地震で東電の失敗が明らかになったのは二つ、「津波に対する防波堤が低すぎた」「非常時に必須な冷却用のポンプが水没するような場所に設置されていた」
である。はっきり言えば冷却できない原発ならどんな原発であれ事故を起こすのは当然である。原子炉は制御棒で臨界状態を停止させても発熱がいきなり停止することはなく、反応が徐々に停止していくのであるから燃料は一年以上発熱を続けるものだ。薬缶に水を入れて沸騰させたところで火を落とさなければどうなるか考えれば答は自ずとでるだろう。水を追加しなければ空だきになるし水が水蒸気になって膨張するのにふたをしていればふたが踊りだす。ふたから水蒸気が漏れないようにすれば圧力上昇で薬缶そのものが爆発するだろう。同じである。


3.火力発電への集中は東電の経営基盤を崩壊させる
東電管内で火力発電を増やすだけでも重油の価格は上昇した。燃油調整で電気代を管内で負担させようとしても、そもそもの火力発電の割合が増えては基礎的な料金体系を大幅改訂して電気料金を大幅上昇させねばならない。
この計画を経産省は認められるだろうか?
原発事故を起こして計画停電をよぎなくさせて社会を混乱に陥れた東電が、経営が苦しくなるので料金上げますといって認められるわけがない。彼らの申請が正しいにも関わらず。
ちなみにリーマンショックの頃、バブルの最後の打ち上げ花火のように商品相場が高騰し、原油価格が1バレル150ドルを付けた頃、東電は燃油価格になやまされ大幅赤字に陥っていた。07年度には▲1,500億、08年度には▲845億の大赤字をだしている。(ちなみに東電は1,500億ぐらいの黒字をだすのが平均的な会社である)
ここで火力発電の割合を増やして料金改定を拒まれればどうなるか?5,000億規模の損益悪化要素になるだろう。
ちなみに東電のデータでは原発利用率1%の悪化は110億の損失になるという。(四半期報告書より)2009年度に柏崎は21%ぐらいの稼働率、福島第一・第二は80%の稼働率だった。現在ゼロである。東電全体では2010年見込が57%だったから11年には12%程度か。(現在稼働している原発だけが11年に稼働していると仮定)
45%低下なら4,950億悪化。大体あってそうだ。
しかも輪番停電もそうだが、電力需要を減らしてくれとお願いしているということはそもそもの売上減を意味する。それに対しコスト側は発電量の減少要素は原発であり、減価償却コストが主で燃料価格の割合は火力発電より大幅に少ない。つまり発電量が低下してもコストは減らないということになる。
東電の年間売上高は5兆円ほどだが、発電量の減が原因で販売機会を失った影響として売上は1割の5,000億規模で減少するとみるのが妥当なところか。これによる損益影響は4,500億ほどか?(500億ぐらいはコストが減ると大まかに決めつけ)
そして今回の原発廃炉の費用を通常廃炉の一基1,000億×4とみて、廃炉用の引き当てが3/4行われていたとすると1,000億ほどのコストとなる。(資産除去債務が7,700億あるからこれぐらい?)そして原発の再稼動等が困難になると原発の固定資産と核燃料の棚卸資産の減損処理も必要となる。核燃料は9,270億、原発の固定資産は8,524億有している。半分が動かないなら8,000億程度は減損が必要なのではないか?
ここまでで単年度で▲1,85兆のロスが発生し、火力発電で需要を全部1年で埋めても翌年度以降も莫大な燃料代に悩まされる結果黒字にすることができない。

繰延税金資産は4,700億ほど保有しているが、これも1.85兆円のロスをだし、黒字が出ない状態となれば取り崩しである。さらに4,700億の損失。

さてここまでは東電の経営上の損失の話であるが、ここまでで▲2.32兆の損失。
今純資産は2.98兆あるから債務超過にはならない。廃炉の費用の見積もりが甘いとは思うが。

4.そういえば災害補償は?
災害補償に関して東電が引き当てをとっているのは700億程度、原発1施設でかけられている保険が1,200億と言われる。つまり1,900億を超えるところが損失となる。
ちなみに民間保険では天災は免責事項となることから考慮しない。
で、問題の賠償額は…周辺住民への補償、農業・畜産業補償、漁業補償が確実な線であり、そのあとに企業の停電に伴う機会損失が挙げられよう。民間の輪番停電は値下げでごまかしてしまうつもりのようだ。周辺住民への補償は避難した周辺30kmの避難民20万人。そして農業・畜産業・漁業。避難民一人300万円で6,000億、農業・畜産業・漁業で1兆円ぐらいが相場といったところか。米国シンクタンクの3兆円は大げさだろう。
で、1.6兆円から0.19兆円を除いた1.41兆円が損失となり、ここまでで0.75兆円の債務超過となる。
しかも今後も価格改訂をして大幅値上げをしないと利益は出ない。

5.政府救済は?
政府は「一義的に民間での対応を求める」と主に予算制約上の問題から支援を拒絶している。
ただ東電が対応できない部分は政府が肩代わりするという。対応できない部分とは債務超過になるところだろう。

6.では株主に責任があるのか?
会社は株主の所有物である。他のステークホルダーに配慮が必要だが、それが基本である。
債務超過に陥ろうとするならば、金融機関からの融資継続を考えれば増資せざるを得ない。
今後の運転資金と今回の損失対応で合わせて2兆円規模ぐらいだろうか。
増資するなら既存株主の持ち分は希釈され大幅に毀損する。しかも増資してもらうためには既存株主を退場させること、すなわちかなりの減資を行ってからの増資となる公算が高い。今後の損失見込がたたない為、新旧会社の分離を行うか、ハイリスクな投資を行う増資引き受け企業に対価を渡す必要があるからである。
結局株主は総退場する羽目になるのではないか?株主の責任といえば実のところ経営者に対して原発の安全性の確保の為に防波堤を高くすることや、冷却用電源確保をするという後でわかったやるべきだったことを実行させておかなかったことなのである。
株主のみに責任ありとするとかなり反発されるだろう。融資した金融機関に責任があるのか?それもまた困難だ。電力債に投資した機関投資家自治体に責任はあるのか?色々考えてみるが、東電の経営陣と保安院つまり政府以外に責任を持つ部門はないだろう。結局経済的補償については東電自身と国家財政に委ねられることとなる。ただ国家賠償としてかは別だ。他の東北の津波被災地域も農業をするのに致命的な海水(塩分)に浸かったわけだし、家も失った。ここにも国や自治体は優先して融資したり固定資産税の減免に応じる必要はある。
そんな金はないというのが現実のはずではあるのだが。

7.11年3月期決算は?
3と4の部分は2010年度中に実現もしくは引当するものと、2011年度に発生するものがある。
2010年度で実現するのは地震後の電力売上の減 800億ぐらい?原発利用率低下影響(2週間分)200億 合計1,000億
引当は廃炉追加引当1,000億、固定資産減損・棚卸資産評価減8,000億、繰延税金資産取り崩し4,700億 災害補償追加引当14,100億 合計27,800億
29,800億の純資産があるからギリギリ債務超過にならなかったー!という結果ぐらいを予想。翌年で大幅債務超過確定のコンボで。