【コラム】東芝と日立に見る「うさぎと亀の関係」:日本を代表する両社が高ROE戦略で明暗 [08/12/14]

とりあえず一定期間前に載っていた続きはこれ↓

同じく収益性を改善しようとしてきた日立は、結局大規模は事業再編を行うことができず、代わりに細かい経営努力を積み重ねてきました。
収益性の改善速度は極めて遅いですが、その安定性は確固たるものがあります。今後も大幅な収益性の改善は見込めませんが、その代わり大きく下ぶれすることもないものと推測できます。

高収益率の罠

高い収益率を目指すことは経営者の使命であると考えられています。実際世の中には高い収益率を誇る大企業がいくつもあり、株価や株式アナリストもそのように評価しています。高い収益率を目指すことにどんな危険が潜んでいて、見落とされているのかを考えてみました。

高い収益率は続かない

効率的で競争原理の世の中であることを考えると、高い収益率は長く続きません。高い収益率の事業には、他社の参入が相次ぎ、収益率は平均へと収束していきます。ただ世の中にはマイクロソフトやキャノンなどの高収益大企業が存在するため、株主や株式アナリストはそれらを目指すことが正しいものだとして議論を展開します。確かに参入障壁の高い分野である程度の地位やブランドを確立すれば可能ですが、それを目指すことは大きなリスクを伴います。

実は収益率が高くない

高い収益率に見える事業が、実はそうでない場合があります。
収益率が高かったのは単にビジネス環境が良かっただけで、いったん環境が悪化すると一気に不採算部門へと変化してしまう場合があります。短期的な経営を考えていると、ビジネス環境が今のまま続くという前提で計画を建ててしまいます。経営計画は、1つの景気循環を超える長さで考えるべきでしょう。これは経営者も然り、それを評価している株式アナリストにも言えることだと思います。

一般に使われる「高収益率の低収益率への収斂(しゅうれん)」のイメージをグラフに描いてみました(下表)。
理論株価などはこのように評価されることが多いです。しかし、実際は波線のようになります。
高収益率事業は景気変動の影響を大きく受け、一方低収益率事業は、景気変動の影響をあまり受けません。これらの特性を考慮して経営計画を建てるべきでしょう。

分散のない事業ポートフォリオ

高収益率を短期的に追求することは、高い収益率のビジネスに資源を集中投下することです。これは資産ポートフォリオで言えば、株式市場が好調な時に株式のウェイトを増やし、安全資産である現金や債券のウェイトを減らすという行為に相等します。短期的には成績は良くなるかもしれませんが、1つの景気循環を通して考えると非常に大きなリスクを抱えることになります。また、資産ポートフォリオと違い、事業ポートフォリオは、いったん内容を変更してしまうと元に戻せません。一番大事な資産である人材と知識が流出し、以前は持っていた特定の分野での強みがなくなってしまうため、事業の建て直しは困難を極めます。自社の抱える人材の価値を正確に評価できるかどうかが経営の大切なポイントだと考えます。

東芝の今後はいかに?

日本を代表する総合電機メーカーである東芝の一番の資産は言うまでもなく人材だと考えます。
毎年有名大学から博士号を持った研究者が多数入社しています。研究も様々な分野で日本のトップクラスであり、まさに日本の企業研究を代表する会社です。その会社が株式市場の論理に飲み込まれてしまったように思います。早くスタートしたうさぎは道半ばで怪我をしてしまいました。その間にマイペースで進んできたかめが追い越してしまうかもしれません。前述した通り、東芝は人材が豊富な会社です。再スタートを切るうさぎが地力を発揮しどのぐらいの期間で復活できるか、また立ち直ったあとどれぐらいのスピードで走ることができるか、今後の展開を見守りたいと思います。