解説

文章は以上であった。
「赤字の東芝と堅調な日立」というテーマらしいが、この論説は数字だけをみた分析の失敗例である。
まず、そもそも東芝と日立の戦略にそう違いはない。なぜか?

1.日立の場合
企業買収戦略として東芝のWH(ウェスチングハウス)がよく取り上げられるが、日立も同様に大型買収を行っている。IBMからのHDD事業買収である。
これはITバブル崩壊の底の時期2002年のことで20億5千万ドルでの買収であった。これは当時から事業買収の失敗例となるのではないかと危ぶまれていた。なぜなら日立は量産部品の製造技術に優位性があるわけではないからである。2002年当時でもHDDは既に製品開発は製造技術の開発、つまりHDD容量の拡大と微細化がテーマとなっており、それでいて価格は常に低下を続けPCに搭載されるHDD価格は容量が増大する割りに変化がないという低付加価値商品への道をたどっていたからである。
だからこそIBMも撤退したのだが、日立はこの事業が買収直後から赤字に陥ったため、面子をかけて黒字化への長い道程をたどっていた。2008年度に至りようやく「黒字化できそうだ」という声明を上期に出したが、その後のリーマン破綻後の景気後退でどうなったことか。
そしてこの買収こそが日立のその後の買収戦略を運命づけた。
「HDD事業が成功例になるまで次の大型買収は困難である」
他の事業でのポートフォリオは変更が困難となり、日東電工売却以外は連結子会社の入れ替えは低位水準となった。また子会社再編での事業構造改革には熱心であった。
これは好景気の間には高機能材料や電力・産業部門の子会社の増益でむしろプラスへ働き、営業利益は大幅プラスへ動いた。しかし、原子力部門が中電浜岡や北陸電力志賀でトラブルを起こしたことや、HDD事業の固定資産減損で苦しみ、純利益は常に低空飛行となった。
また、上場子会社こそ収益性がよいので少数株主に利益が回っている。日立に必要なことは選択と集中でなく、上場子会社を完全子会社にすることだと営業利益と純利益のあまりの違いをみて誰もが思うことだろう。

2.東芝の場合
東芝半導体事業の投資と原子力のWH買収で名を馳せた。
しかし選択と集中を行っていたわけではない。買っただけだ。
その間売却したのはタンガロイ・セラミックス・エンタテイメントであり傍流事業と赤字事業だけだ。
半導体でもフラッシュメモリ一辺倒でなく、LSIはソニーからセル製造設備を引き取らされ、ディスクリートも増産投資と全方位に伸ばそうとしていた。デジタルメディアでは次世代DVD戦争で敗北してHD事業を諦めたDVD事業へ大幅投資していたわけだし、テレビは液晶で全世界で大量に売ろうとしていた。社会インフラではどの事業も縮小や売却への道は選んでいない。
07年度に至りさらに事業を一部売るのかと思いきや、事業売却はやめて銀座のビルを売却し、08年度は不動産子会社株を売却した。
事業リスクを全く見ない無鉄砲な全方位攻撃であり、これは経営と呼べない。なぜなら資金は結局有限であり、D/Eレシオが悪化した状態で景気後退期に入ると結果は火をみるより明らかである。
案の定、景気後退期に入ると真っ先に半導体価格が下落し08年上期決算で赤字に陥りこんな記事を書かれるところまで落ちぶれた。しかし上期の赤字などかわいいものだろう。下期にリーマン破綻後のショックがでている以上、さらにひどい結末が待っていることは疑いない。

日立はHDD、東芝フラッシュメモリに投資した。フラッシュメモリは成功時期があったがHDDにはなかった。話はそれだけである。しかし東芝は成功をみて全方位攻撃をしかけたことがリスクとなってしまったのが現実である。日立はその間身を縮めることしかできなかったがリスクは低くなった。これは話のネタになるが、本来選択と集中として比較すべき会社は三菱電機との比較である。次は東芝三菱電機で比較してみて欲しい。こちらの方が経営上有益だ。

3.高収益率の罠の現実
根本的に間違っている。「高収益だから変動率が高い、低収益だと安定である」は全くの嘘である。
高収益で安定事業は存在するし、低収益で変動率も高い撤退したほうが無難な事業は存在する。
前者の典型例が保守・サービス事業でありプリンタメーカーだと消耗品事業である。
後者の典型例が日立のHDD事業である。
収益の変動率が高い事業でも低い事業でも同じことは「収益の最大化」である。
いいかえると累積収益の最大化である。
そしてめざすところは収益水準の向上である。収益率の変動のメモリをより上にもっていくことが重要なのである。
売上高営業利益率をみればわかる。たとえば3%を5%へもっていくことが重要なのだ。

収益の変動率が高い事業の特徴はむしろ高水準の設備投資である。つまり売上高に対する固定費比率が高い為に、販売価格の変動で収益率が大きく変動するわけである。販売価格の下落が少ない間は高収益が得られ、下落が顕著になると収益が大幅に落ち込み収益率が一気に悪化する。そして販売価格の下落をコスト削減でいかに乗り切るかというところでシェアが重要性を持つようになるのである。
なぜか?固定費の内訳をみればわかる。そして大半は設備投資に伴う減価償却費と人件費である。
つまり製造能力は概ね設備投資額に比例するが、人件費に関して言えばほとんどが製品開発の人員であり固定費だからである。シェアが高ければ売上高固定費比率が低下するのはこの部分である。半導体の場合、微細化や歩留まり率向上でのコスト削減という要素もありながらも、常にこの問題に左右される。

ポートフォリオをわかりやすく言うにしてももう少し上手に説明して欲しいコラムであった。