キプロス危機

先週土曜に報じられたキプロスでの預金封鎖&預金強制カット(預金課税)強行がやはりうまくない。

キプロス金融危機が起こったのは産業育成の為に法人税を低くした上で外資参入を容易にしたことがあり、基本的にはアイスランドと似た政策であった。
違うのはアイスランドはユーロを導入しておらず(アイスランド・クローナ)、彼らは金融危機とともに通貨危機となり自動的に通貨切り下げとなったところ。
アイスランド通貨危機になったとき、輸入価格が急騰して遂に国内唯一のマクドナルドが撤退したことはあまりにも有名。またイギリス人が多数アイスランドの銀行に預金していたことから彼らも多額の損失を被った。

キプロスはユーロ圏であり、通貨切り下げは自国で判断できない。しかも金融機関はギリシア国債を大量に保有していたので、昨年のギリシア危機で多額の損失を抱えることになった。
キプロスは元々北部のトルコ系が事実上独立しており、南部のギリシア系で成り立っている。主な産業は海運以外になく、タックスヘイブンにすることで金融業を底上げして露西亜資本を呼び込んできた。つまり預金カットすると露西亜企業が多額の損失を被ることになり露西亜が損失を被ることは明白である。しかし露西亜キプロスが提示した資源開発権利売却には応じすることなく(最近シェールガスの影響で価格の下落している海底ガス田だから当然か)、通常の方策での救済策は絶望的になった。

ここまでキプロスが追いつめられたのはEUに銀行救済を求めたところ、ドイツ等が自力での最大限の処置を行った上で銀行救済を行うのが筋であるという
いかにもドイツ的発想(とはいえ正論だが)を求めたからだ。しかもキプロスの銀行を救済することはそもそもキプロスの住民だけでなく、露西亜を助ける
ことにもなる。ドイツの金で露西亜を助ける必要がなぜあるのか?当然の疑問である。つまり預金カットして応分不安をしてもらった上でなら、再建可能性もあがり、EU内の金融救済処置として認められるとそういう決着だったのである。

しかし時間があまりにもなかった。2月末の総選挙で財政緊縮派が勝利して現政権がEUに銀行救済を求めたのだが、ドイツ等は「全ての預金を一律カットせよ」と求めてきた。日本にある預金保険は当然キプロスにもある。2000年9月に10万ユーロ未満の預金は保護される制度が導入されたのだ。
つまり小口預金に至るまで一律課税して預金カットすることはそもそも法令違反である。
確かにドイツ等にも言い分はある。「金融機関が倒産したことによるカットでなく、金融資産に対する課税であるから小口債権者保護の観点からは問題ない」
法制度の条文からいえることではあるかもしれない。しかし法制度の趣旨とは違っていよう。預金保険制度は小口預金を保護することによって、多くの資産家でない人々の生活を守ろうというものである。日常生活の引き出しに応じてもらえなくなったり、生活資金をカットされたら国民生活に大きな支障がでることはだれでもわかる。

ではどうすべきだったのか?実はドイツ等の求めたやり方は性急には見えるがやり方は非常に正しい。金融資産に課税するしか確かにキプロスから金を引き出すことは不可能だし、自助努力を求めるならそれしかなかった。もしくは銀行を破産させて露西亜ギリシア金融危機を広める荒療治である。
性急なのも準備期間を置いたら当然取り付け騒ぎが起きるので国会で時間をかけて審議するわけにもいかない。
危険なのは他国に波及することである。キプロスで起こったことは「明日は我が身」と思ったイタリア・ギリシア・スペインで預金引き出しが加速したらどうなるか?中規模国でなく小国であるスロベニアにはすぐに波及しそうにみえる。これは欠点だがハードランディングとしては次の国には「何をすれば救われる」かを提示しておけば先に改善策をうとうとするアナウンス効果が得られる。

かつて敗戦直後の日本でも金融課税をおこなった。当時は「財産税」であり戦時利得の徴収を目的としたが、1946年に10万円以上の財産(金融資産・固定資産とも)に対して課税し、それは懲罰的課税であった。しかも預金封鎖をした上に高インフレであった為、預金は瞬く間に価値を減じ実際には小額の預金者も含めた全ての預金者に被害が及んだ。戦時中に国債を買うことも奨励されていたが、購入者は換金手段を持たず最終的にはインフレでほぼ無価値となった。
このような国民からの財産供出をしないと助からないのだとすれば敗戦のようなわかりやすい理由がなければ暴動が起きるだけでは済まないだろう。
ギリシアで暴動が起きたのは何も彼らが空気も読めない怠け者だったからでなく、生活を破壊された被害者と自分たちを認識しているからである。

ただ一番良かったのは「助けないこと」だったのではないか。EUの人々はこの考え方から逃げられない為に今後さらに混迷が深まるだろう。