たまには経済のことを

時々現在の経済状況について購買力平価からいって現在の円高は当然の動きで、特に問題ないという意見があったりするので反論しておこう。

私は今の円高局面が継続することは本当に日本の産業空洞化をもたらし、特に雇用に致命的なダメージを与えると考える。
検証してみよう。

1.円高メリット
まず第一に自国通貨高がもたらすものだが、これは簡単で外貨による購入価格が自国通貨換算で下落することである。
つまり企業も個人も円高になれば購入価格が下がるから支出が減る。これは分かりやすい。
で、個人がメリットをどこでうけているかというと、実は今回の円高では海外旅行にでもいかないと実感できない。
なぜかといえば、過去の円高局面であれば起きえた円高還元セールが減っているから実感できないのだ。
日本では長くデフレが続いたのに対し、海外では普通の低率なインフレが起きていたから内外価格差が縮小していたのである。
この為、円高局面になってもそもそも日本国内の価格が十分に安い為に値下げ原資がない。
また、リーマンショック後の回復局面で資源価格は再び騰勢を強めた。この為にガソリン・軽油・穀物・砂糖などの原料価格が製品価格に直結しているものの価格は円高で価格上昇が和らいでいるだけで、価格上昇は如実である。
国際的に食料価格が上昇してきている昨今ではスーパーで買う食材の値段が変わっていないことが最大の円高メリットなのだ。

一方で海外旅行に行けば、かつてかかった費用が大幅に下がっており、円高メリットが満喫できる。
そして海外ブランド品は元々外貨建で値段設定がされているから国内価格は産出国価格+輸送費で設定した価格がタイムラグをもちつつ為替連動するから、海外土産が円高メリットで安くなった!と実感するのは国内での価格下落が少し遅れるからである。

2.円高デメリット
では円高デメリットは?外貨建ての売上高が目減りすることで、企業がダメージを負うものである。
国民の被害は株を保有してれば株価が下がることと、サラリーマンならメーカー社員の賞与で結果がでる。そして運用先が悪化することで年金財政がさらに悪化する。個人の株式投資が盛んでない日本では国民は痛みを感じにくい。

円高で工場の採算が全く取れなくなった企業は工場の海外移転を促進する。
そしてここでもっとも忘れられていることが円高によるメーカーの海外移転の効果である。
メーカーが工場の海外移転を進めると、下請け業者とメーカーの工場で働く人が困るのはわかるらしいが、そのあとが忘れられている。企業は余剰となった国内人員をリストラせざるをえなくなる。工場が海外移転しても国内での雇用を保っていてはコスト削減の効果がほとんどでないのだから当然の結果ではある。
このリストラがいつ起こるものなのか?これは単純で業績の悪化した翌年度が順当である。震災の影響から脱するはずの11年下期で改善できなければ12年度にはリストラの嵐になるのである。
現在日本経団連や商工会議所を中心に円高対策を要求しているが、実際の企業と労働者の受けるダメージの多寡を考えれば、本来労働組合の元締めたる連合が円高対策を求めなければならないのである。連合が支持母体の民主党政権自民党よりはるかに円高対策に関して敏感でなければならない。

と、考えると単に労働組合の感覚では工場の海外移転は進みっこないと思っているか、移転しても雇用は確保してくれると思っているかという楽観があるのではないかと邪推してしまう。

3.企業は海外移転を加速させるのは必然なのか?
では本当に企業は工場の海外移転を進めなければならないほど追いつめられているのか?

メーカーは日本で操業するには六重苦があるという。
円高・高い法人税率・他国の自由貿易協定の進捗・温室効果ガス削減宣言・製造業への派遣禁止・震災後の電力不足
このうち温室効果ガスの削減については有名無実になった。原子力発電を一方的に減らしてしまったので火力発電が急激に増えたためで、25%削減の根拠は完全に崩れた。もう守ることはないだろう。残り5つの問題だ。

電力不足は民主党政権原子力発電について既存の発電所の再稼働を認める基準を決めれば解決に向かう。
原子力発電をなくせといえば電気料金が上昇し、エネルギー安全保障は危険になるが、大量の火力発電所が建設されて解決される。再生可能エネルギーの発電の増加など直近の対策足りえない。太陽光発電をどれだけ増やせるか、シリコンの生産能力でもみればわかることだ。風力発電も建設場所を確保する方が難しい。重低音の騒音は深刻だ。結局即効性があるのは火力発電となる。前首相が埋蔵発電能力に期待とか間抜けなことを言っていたが、あれも火力発電である。が、今まで使っていなかった理由ぐらい考えてみればいいと思う。まずは現在再稼働するにあたってそもそも稼働できないものもある。そして古い発電設備(大半は重油生炊きの火力発電)の最大の問題は発電効率の悪さである。しかも原油価格の高騰で仮に発電しても普段購入している電気料金より高コストの発電になってしまう。使われるわけがないのである。

そして新設の火力発電で原子力発電すべて置き換えれば、ただでさえ元々高い電気料金が数倍に跳ね上がる。現在の重油・石炭・天然ガスの価格からみれば容易に想像がつくことだ。そんな電気料金を払っていては、電気多消費の産業は国内に生き残れないのは確かだ。かつてアルミ精錬会社が日本からすべて逃げ出したのと同じことがおきるのだ。
そして価格の問題以前に重油・石炭・天然ガスはすべて輸入であることから、エネルギー安全保障上の問題が拡大する。原油の中東、天然ガスの東南アジア、石炭の豪州・インドネシア・ブラジルへの依存性が高まり、ますます中東の内紛に左右されるようになる。円安に傾いたら今度は買い負けが大量発生して発電量自体が確保できなる危険すらあるだろう。